ミシンの歴史を教えてくれる本を紹介しています。
といっても現状では、1冊でトータルにミシン史を知るのは難しいです。
そこで、
- おすすめ書籍
- 組合史や会社史
- 私の著書
の3点から紹介します。
おすすめ書籍
ミシンの世紀が参考にした文献のうち、おすすめしたい書籍を次にまとめています。
参考文献はサイトの随所で文献を記すようにしていますが、かなり多くて書いていないのもあれば、それらを既知として書いた記事もあります。
既知が未知であった頃の著書「ミシンと衣服の経済史」には全ての参考文献を網羅しているので、詳しくはそちらをご覧ください。
Laurie Carlson, Queen of Inventions
これは9歳から12歳までの子供を対象としたミシンの絵本です。
1ページに1点以上の大きなイラストや写真が載っていて、時代を追って丁寧に説明しています。英語で書かれていますが優しい英文で書かれています。
ミシンが発明される前に人間は手でものを縫っていました。それがどれだけ大変な作業だったか。
そして、バルテルミー・ティモニエがミシンを開発して、アメリカでも発明が続いて、どのような経緯でミシンは人々の手に渡っていったのでしょうか。
途中からは米国シンガー社創業者アイザック・メリット・シンガーの活躍を中心に述べられています。
他社は顧客をアパレル工場に固執しましたが、シンガー・ミシンはアパレル工場にも家にも普及しました。アイザックを中心に取り上げることで、この絵本はさらに読みやすくなっています。
ミシンを使う家族の姿、ミシンを宣伝する広告カード、ミシンを使って作られた衣装の数々。これらの写真やイラストが多く載っているので、とても分かりやすく、歴史を想像できるようになっています。
1870年代頃にはメール・オーダーといわれた郵便による服の通信販売も進んだようで驚きます。
ミシンの世紀でも強調していますが、ミシンは家でだけ使われたのではありません。
アパレル工場で多用され、男性・女性を問わず多くの雇用を生みました。工場にずらっと並ぶミシンと縫製工をみると、一つの熱い時代を感じることもできます。
この絵本にも掲載されているシンガー社の工場は次のイラストです。洗練された工場を用意した他社と違い、シンガー社は手作業部分を多く残した工場でミシンを作っていました。この点は「ミシン製造業の生産体制 : 揺籃期の多様性」をご参照ください。
クライマックスには「シャツの歌」の一部抜粋が添えられています。
ミシンの与えてくれた暖かい時代を感じさせてくれます。
書誌 Laurie Carlson, Queen of Inventions: How the Sewing Machine changed the world, Millbrook Press, 2003.
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アマゾンのカスタマーレビューでは
けっこう好評です。
かいつまんで訳しますと、
- ミシンの歴史を簡単に眺めようと思って購入した。児童書の割にはしっかり書かれているので刺激を受けた。ただ、写真にキャプションを付けてほしかった。どういう写真かが分かりにくい。
- 針が目まぐるしく動くので、多くの人がミシンを怖がったのも不思議ではない。でも、この「発明の女王」は色んな社会階級を超えて人々の生活に革命を起こすことになった。
などです。
写真のキャプションがないのは残念ですが、もしこの絵本を購入されて写真が分かりにくければお問い合わせフォームからお尋ねください。調べてお知らせいたします。
裏表紙の和訳と要約
この絵本の裏表紙に概要が書いてあります。
和訳・要約をしておきます。
昔から人々は一日中部屋に座って針と糸で縫う作業をしていました。そうしないと、海を渡るために船の帆を作ることもできませんし、旅行のためのスーツケース・カバーも作れませんでした。
ウェディング・ドレスで輝くためにもベビー服を着せるためにも、裁縫はとても大切でした。
1850年代に、アイザック・メリット・シンガーという名前の俳優が発明した発明品が、裁縫師や仕立て屋よりも優れた、より速く縫製できるミシンを開発し完成させました。
そして、多くの人たちがミシンを買うことができるようになりました。 他の多くのミシン機械会社が立ち上げられ、すぐに世界中でミシンが売られました。これは、発明が人々の日常生活を変えた信じられない話です。
書誌 Laurie Carlson, Queen of Inventions: How the Sewing Machine changed the world, Millbrook Press, 2003.
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Ruth Brandon, A capitalist romance
この本はシンガー社創業者のアイザック・メリット・シンガーの伝記です。
著者のルース・ ブランドンはイングランドに暮らす伝記作者です。
あまり知られていない、創業者のミシン開発にいたる過程がかなり詳しいです。
シンガーはミシンの発明者として広く知られていますが、実際は既存の機械を改造して、機械時代の新しいツールをアメリカで熱心に販売しました。
彼の本当の才能は、広告、笑顔のサービス、分割払い、マーケティングの仕掛けにありました。シンガーの努力の甲斐あって、ミシンは世界各地の家や工場で騒がしくなりました。
著者ブランドンの綿密な研究は新聞、19世紀のアーカイブ、シンガーや家族の手紙や書類に基づいています。
シンガーとミシンは、アメリカ初期の起業家を洞察させてくれます。そこには挑戦、個人的な野心、名声、運勢、アメリカンドリームの達成といった複雑なネットワークがあり、本書は創業者をつうじてその複雑な網を解明します。
書誌 Ruth Brandon, “A capitalist romance: Singer and the sewing machine“, Kodansha Amer Inc, 1977.
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Don Bissell, The First Conglomerate
一言
世界初のコングロマリット(複合企業)であるシンガー社の150年間をまとめた書籍です。
かなり詳しく、シンガー社史、社長史、他社史、世界史の各層が入り乱れて躍動感ある本になっています。
著者の序文によると、ミシンはアメリカの家に最も浸透した機械で、パソコン以上の浸透率を誇りました。ミシンが家だけでなくアパレル工場にも配置さたのは広く知られるとおりで、職場のあり方や労働者のあり方に大きな影響を与えました。
書籍カバー概要のまとめ
アメリカの偉大な文明であるミシンは19世紀の最も重要な発明を代表しています。
他の発見と比較してもミシンの立場は抜きんでています。他の発明は世界の労働者階級にあまり影響を与えませんでした。しかしミシンは地球規模で職場を変えたり地球全体の生活の質を向上させたりしました。
現代の電子コンピュータや他の家電製品はシンガー・ミシンと同じくらい多くの売上や世界的な認知度を達成しているわけではありません。
シンガー社の5, 000支店と縫製センターは、世界にある190もの政府に達しました。週ごとの給与は一度に87, 000人の従業員に支払われました。
世界的な顧客基盤に合わせ、ミシンの取扱説明書と修理マニュアルを少なくとも54の言語に翻訳して配布しました。
その一例となるのが次の資料です。
第三世界言語の多くはシンガーという言葉に関し、縫製の動詞「sewing」と名詞「sewing machine」との両方をシンガー・ソーイング・マシンとして理解し、省略して「シンガー・マシン」として理解してきました。
シンガーミシン、同社の工場、 修理指導センターの世界的普及は、アメリカ南北戦争以前から進んでいました。
世代を超えた受容がシンガー社の特徴でした。たとえば、同社の管轄する諸機関は同じ家族を3世代・4世代にかけて雇用しました。
同社はドイツ文化にも深く根差し、 第二次世界大戦のドイツの飛行士はシンガー社のヨーロッパ製造施設にドイツの勝利を信じるがゆえに、爆撃を避けました。敵対行為が終了してから、比較的損なわれていないシンガー施設は数日以内に営業を完全に再開しました。
書誌 Don Bissell, The First Conglomerate: 145 Years of the Singer Sewing Machine Company, Harvest Lane Press, 2010.
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組合史や会社史
日本語でミシンの歴史を述べた本はほとんどありません。
だいたいは組合史や会社史で、次のようなものがあります。
日本ミシン産業史
まず、ミシン製造業界の歴史と現状を総括的に述べた最初の文献は、
書誌 日本ミシン産業史編纂委員会編『日本ミシン産業史』日本ミシン協会、1961年
です。
同書は、欧米諸国でのミシン発明を略述することから始めています。
そして、日本のミシン輸入、国産化、輸出化を段階的に述べていきます。刊行時の技術、規格、価格、団体についても詳しいです。
日本ミシン産業史編纂委員会編『日本ミシン産業史』をふまえて編纂した詳しい本が、
- 蛇の目ミシン社史編纂委員会編『蛇の目ミシン創業五十年史』蛇の目ミシン工業株式会社、1971年
- 工業ミシン産業史編集委員会編『日本工業ミシン産業史―日本工業ミシン協会の歩み―』日本工業ミシン協会、1984年
です。
蛇の目ミシン創業五十年史
『蛇の目ミシン創業五十年史』は、ジャノメ・ミシン社の会社史です。
戦前期の状況に関して『日本ミシン産業史』と重なる所が散見されます。
といっても独自性もあります。
第1編では、19世紀欧米諸国におけるミシン発明・開発動向だけでなく、欧米でのミシン利用像、欧州企業の動向、日本洋服普及史にまで詳しくふみこんだ点に特徴があります。
また、第2編はジャノメミシン社の会社史になっています。
書誌 蛇の目ミシン社史編纂委員会編『蛇の目ミシン創業五十年史』蛇の目ミシン工業株式会社、1971年
なお、先行して刊行された、
書誌 ジャノメミシン社史編纂委員会編『パイオニアシリーズ2 ジャノメミシン―世界のミシン専業メーカー―』ダイヤモンドグループ、1965年
は、『蛇の目ミシン創業五十年史』第2編のダイジェスト版です。
日本工業ミシン産業史
『日本工業ミシン産業史』は、タイトルどおり工業ミシンに特化したミシンの歴史です。
本書は、本縫以外の縫製をするときに避けられないミシンと工業ミシンを定義し、戦後期を対象に産業編、技術編、協会編、資料偏、会員企業小史の5編で構成しています。
産業編の序説(20頁分)にはミシン伝来から1950年頃までの略史が述べられています。
書誌 工業ミシン産業史編集委員会編『日本工業ミシン産業史―日本工業ミシン協会の歩み―』日本工業ミシン協会、1984年。
私の著書:ミシンと衣服の経済史―地球規模経済と家内生産―
『ミシンと衣服の経済史』は、米国シンガー社をはじめとするアメリカとドイツのミシン会社が戦前の日本へミシンを輸出していた状況の詳しくまとめています。
書誌 岩本真一『ミシンと衣服の経済史―地球規模経済と家内生産―』思文閣出版、2014年
これまで紹介したミシン歴史の本は、日本のミシン製造業を中心に取りあげているため、対象の時期は戦後が中心になります。
第1部
これに対し、本書はその前段階、つまり戦前日本がミシンを輸入していた頃の世界的なミシン状勢を丁寧に描いています。これが第1部の主題です。
アメリカ多国籍企業の研究者であるマイラ・ウィルキンズの文献を参考にし、シンガー社の史料などを加えながら、まとめています。また、上述のミシン関係本のうち「日本ミシン産業史」も参照しています。
第2部
その上で、日本にミシンが普及するにつれてアパレル産業(衣服産業)が展開していった様子を詳しく述べています。これが第2部の主題です。
工業統計調査をはじめとする統計資料や裁縫業者の個別文書などを用いています。
オンデマンド版
ご関心のある方は出版社のページを覗いてください。
書誌 ミシンと衣服の経済史―地球規模経済と家内生産―【オンデマンド版】思文閣出版、2016年