ミシンの特徴2:何でも縫える簡便性

ミシンの不思議
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この記事ではミシンの簡便性についてまとめています。

ミシンの特徴として「高度な設置自由度」が挙げられます。この特徴を支えた別の特徴に簡便性が挙げられます。

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薄いものでも縫える

1911年に刊行された『共立女子職業学校二十五年史』によりますと、同校に設置された裁縫科の紹介に、ミシンが製造品目を問わない点が明記されています。

やや極端に言えば、布であれば何でも縫えるというミシンの特徴を示しています。

此の科に於ては和服の裁縫「ミシン」使用法、男女小児洋服、婦人洋服及び其の下着類の裁方、積り方、縫方、袋物の製作を授く。婦人必須の業たるが故に生徒の之を終むるもの最も多し、従来「ミシン」の使用は洋服の製作に限られしが近来は之を拡めて日本服の製作にも使用することゝせり。共立女子職業学校『共立女子職業学校二十五年史』1911年

この紹介には、共立女子職業学校裁縫科で教授された衣服および関連品目として、「和服」「男女小児洋服」「婦人洋服及び其の下着類」「袋物」「日本服」が挙げられています。

「和服」と「日本服」の関係は明記されていませんが、「洋服」への対語として類似したものであると推察されます。

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厚いものでも縫える・何でも縫える

下の表3はシンガー社が出版したカタログから用途や特徴を一覧化したものです。

表 製造所向けシンガー社カタログ登載機種一覧(1901年)

機種番号動力用途特徴
第3種第1号(手廻式)革類(馬車内部の装飾及び馬具等)留め縫い用
第7種第1号足踏力厚地織物、革類、帆布等1インチの8分の5の厚さを縫える。縫目は最大0.5インチ長。
第15種第41号足踏力・機関力薄地布帛類縫針から腕底まで6.5インチ。
第16種第69号 ボタン縫付け(二つ孔ボタン、四つ孔ボタン、金属製打貫ボタン)。 
第17種第1号足踏力・機力革類・布帛類。とくに、製靴・紙入れ・写真入れ・折本、手提げカバン等、革製なる袋物。シャツ袖など「管形」の縫物・袋物にも応用可能。 本機の詳細はこちら
第18種第1号管形・凹円形全般。とくに靴の表面。 
第19種第11、12、13、14号総じて円筒形を有する、とくに革類(靴のゴム飾り、靴の後舌、靴後部の縦縫い、シャツ、ズボン、編物類、折り合わせ縫い、縫目を接合するなど)。 
第23種 ボタン・ホール製作用。布地は、革類、羅紗、布帛。ボタン孔開通用の小刀付き。織物の品質により、縫目を縫付けた後ボタン孔を作るか、ボタン孔を先に作って飾縫いを後にするか選択可能。
第2号(足踏力・汽力)婦人用ボタン留靴。 
第13号( 〃 )カラー、カフス、婦人用肌衣、上被等。 
第22号( 〃 )  
第24種第3号( 〃 )肌衣、靴下、編物類、婦人用衣類の裾、布帛製帳物類。単糸鎖縫い。「縫出する縫目は一筋の糸にて切地の裏に恰も鎖形に編物を成したる如き細工を成し且糸を堅く切地に詰めて縫ふ時は平らなる留め縫ひと成り又縫糸を緩めて縫ふ時は其縫ひ目に弾力性を有せしむるが故に縫ひ上ケし後之を自在に伸縮し得るなり」、そのためには「粗き絹糸又は木綿糸を用ふべし」(23頁)
第29種第4号( 〃 )靴・長靴修復、毛皮細工師、上靴縁取り縫い、学校用革袋、馬具類、靴飾り、靴後部のゴム飾り、自転車用小道具入袋など。木製縫台を嵌め込むことで、「普通裁縫機械」として利用可能。
第31種第15号足踏力・機関力羅紗、革類迅速な留め縫い用。第15種に比しより厚地の縫製が可能。「洋服店及び諸裁縫師等凡て異形なる縫物を多く裁縫するに適当」。
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第32種第1号(足踏力・機力)布帛類、薄地の革細工など。とくに、ズボン、上被、帽子、手袋、婦人用上被、ズボン釣り、靴下、編物類、シャツ、カラー、旗の飾縫い、一般の洋服裁縫師など。縫えない物はないほどの需要拡大が強調されている。
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第33種  麻布類、ハンケチーフなど(レース挿入縁縫い)。縁縫襞襠裁縫用。
第10号(足踏力・機力)ハンケチーフ、襟飾り、婦人用下衣、婦人用被衣、小供用衣類、その他類似品。1分間に1,700の縫目を縫製可能。ハンカチの襞襠を自然に折りたたむ機具付き。
第34種第2号( 〃 )凹形物内部縫製(手提げカバン、紙入れ、革製写真・折本など)縫目の筋を細密に屈曲することが可能。
第44種第4、7、8号汽力・電気力布帛類、革類。縁裁り飾り用附属具(小刀)装着可能。とくに第8号は、「仕立屋、シャツ及び婦人用外套製造者等に最も博く」用いられる。
(両針・両梭組織)靴、上靴、靴の甲掛、コルセット(腰部、蓋部含む)、シャツ、襯衣、ズボンつり、襪帯、カラー、カフス、婦人用外套、雨衣、畦綿布製ズボン(労働者用)、外套、チョッキ、「及び凡て衣服類を製造するに最も博く使用せらる」もの。縫針2本・動揺梭2個の組織で、二列の留め縫い可能。縫目と縫目の距離を1インチの32分の1から1.5インチまで伸縮可能。
第35号(足踏力・汽力)コルセット(腰部、蓋部含む)、シャツ、綿紗襯衣、婦人用下衣、カラー、カフス、男女小供用衣服等。 
第36号(足踏力・汽力)カラー、カフス 
第37号( 〃 )シャツ袖等 
第32号( 〃 )革類(靴等) 
第33号( 〃 )靴専用縫針1本を停止できる。
第34号( 〃 )靴専用 
岩本真一『ミシンと衣服の経済史―地球規模経済と家内生産―』思文閣出版、2014年7月、24・25頁より転載。上表を使われる際はお手数ですが著書でページ番号をご確認ください。

これによると、一般的機種である第44種は、第4・7・8号が布帛類・革類全般に向いています。

縫針2本・動揺梭2個を備えた第35号の場合も、靴、上靴、靴の甲掛、コルセット(腰部、蓋部含む)、シャツ、襯衣、ズボンつり、襪帯、カラー、カフス、婦人用外套、雨衣、畦綿布製ズボン(労働者用)、外套、チョッキなどに使われました。

別の本では「凡て衣服類を製造するに最も博く使用せらる」とも言われています(シンガー製造会社編『諸製造所用裁縫機械目録表』南中社、1901年)。

シンガー社のミシンカタログは下のページにまとめています。

附属品を付ければ、さらに何でも縫える

このように、ミシンは1台でもさまざまな品目を製造することが可能でした。

この一般性は生地の厚薄も不問にしました。

とりわけ、厚手生地の縫製の場合は「押へ棒ノ調子ヲ、織物の地質ノ厚薄ニ応シ加減スル事」がシンガー裁縫学校の練習課題となったように、生地の厚薄は調整可能でした。

上の段落の引用は、シンガー教育部裁縫学校編『講習 自第壹課至第六課』シンガー・マヌフアクチユアーリング・カムパニー、1923年、17頁
別の一例として、兵庫県姫路市に操業していた藤本仕立店の史料「柔道着謹告」から引用すると、「本品ハ在来ノ品ト異ナリ、刺縫ノ際素地ノ厚薄ハ少シモ関係セザルヲ以テ(器械力ナレバ)三枚重ネトセリ。故ニ在来品ト比較シテ、確カニ三倍以上ノ強ミアルハ勿論ナリ」とあります。

おわりに

ミシン用途の広がりは、まずは本縫1本針の原型から縫針が増加することで拡大し、次いで付属品による拡大を特徴としていました。

『洋服裁縫新書』には「附属諸機械で一切の裁縫附属品の縫方が容易に出来得られる」と述べられています。

山田東明『洋服裁縫新書』文錦堂、1907年、73頁
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