ミシンと女性:広告やパンフレットにみるイメージの形成

ミシンの不思議
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ミシンと女性は強く結びついたイメージをもっています。

専業主婦の家事労働や、何らかの事情で自活する必要や家計補助をする必要がある女性の家内労働・工場労働など…。

このようなイメージは19世紀アメリカでミシン産業が勃興した時にはありませんでした。むしろ、各メーカーは環縫ミシンや本縫ミシンを工場向けに作っていました。

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ミシンと女性:広告やパンフレットにみるイメージの形成

ところが、19世紀末にシンガー社をはじめとする米国ミシン・メーカーはミシンと女性を結びつけたイメージを宣伝に活用していきます。工場だけでなく家屋をも販路にするためです。

20世紀転換期にシンガー社は多国籍企業化の結実としてほぼ地球上のすべての地域へミシンを販売するネットワークを形成しました。

シンガー社の世界制覇と販売ネットワークにおいて、東アジア地域も例外ではありません。私は自著で次のように書きました。

東アジアにおけるミシン普及は、消費財として利用する主婦像の形成と、既製服購入行動を取る女性像の形成に少なからぬ影響を与えたと思われる。岩本真一『ミシンと衣服の経済史―地球規模経済と家内生産―』思文閣出版、2014年、9頁

シンガー社製ミシンの普及によって、中国、朝鮮、日本などでも専業主婦像や良妻賢母像のイメージにミシンは強く結びつきました。

また、イギリスやその植民地などでも同じようなことを確認できます。同上書121頁あたりに詳しく書いています。

それでは、ミシンと女性の結びついたイメージを米国ミシン・メーカーの広告やパンフレットから紹介していきます。

ご紹介するイラストは早くて1870年代です。

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シンガー社広告カードのミシン女性

まずは有名な広告カードから。これは1900年前後にシンガー社が作成したものです。〔絵付シンガー工業社広告〕と題されたカードは次のデータベースで閲覧できます。

上のデータベースの「キーワードを入力」の欄に「絵付シンガー工業社広告」と入力してみてください。検索結果が1件だけ出てきます。

題名(表題)をクリック。出てきた画面のうち、次の赤線部分をクリックします。PDFファイルがダウンロードされます。それをご覧ください。

絵付シンガー工業社広告

この史料は、各国各地の鳥と人物を描いたイラストです。彩色といいイラストの精度といい、なかなか綺麗です。

この広告カードは面白い宣伝方法を採っています。

表面のイラストには地域色を出した鳥がカラフルに描かれ、裏面には地域の人物が足踏式ミシンに座っている姿が描かれています。つまりローカルにアピール。

しかし、宣伝文句は世界中の女性がミシンを愛してるというグローバルな視点。

このローカルとグローバルの混合は、どのように理解したら良いのでしょうか…。嘘っぽいローカル色がにじみ出てきているように私には思えます。

この手のシンガー社カードはたくさんの種類があります。次のようにインターネット検索してみて下さい。

singer sewing machine post card
検索

アメリカン・ボタンホール社のミシン女性

アメリカン・ボタンホール社は米国ペンシルベニア州フィラデルフィアのチェスナット・ストリートを拠点にしていたミシン・メーカーです。

次のようなミシン女性のチラシがあります。

アメリカン・ボタンホール社のミシン女性

アメリカン・ボタンホール社のミシン女性

この女性は足踏式ミシンに座ってボタンホールを塗っているところです。

足踏ペダルは彼女のドレスで隠れています。このミシンはボタン穴作成用で、ややマニアックな形をしています。

この広告には面白い宣伝文句があります。世界で一番優れたミシン、誰にでもお勧めできるミシン、すべての縫い方に対応、など。

英語の「every」が1ページたった14行に3回も出てきます。「all」は2個出てくるので、合計するとグローバル色フレーズが5個ということになります(worldなどを除く)。

センテニアル社のミシン女性

センテニアル社のミシン女性

センテニアル社のミシン女性

次はフィラデルフィアを拠点としていたセンテニアル社(Centennial Sewing Machine)のミシン女性。

社名をもじって1776年と1876年の1世紀では縫い方が変わったとアピールしています。

とかくミシンを使う女性は若い女性として描かれる点に注意。手縫いは老女、ミシンは少女・女子といったところでしょうか。

エリプティック社のミシン女性

エリプティック社のミシン女性

エリプティック社のミシン女性

この広告はエリプティック社のロックミシン宣伝用のものです。

1870年から1876年までに印刷されたものと思われます。同社は1857年に米国フィラデルフィアに創業したミシン企業です。

これまで紹介したイラストと同じように、ミシン女性はワンピースのロング・ドレスを着ています。

グローバー・アンド・ベーカー社のミシン女性

グローバー・アンド・ベーカー社のミシン女性

グローバー・アンド・ベーカー社のミシン女性

このイラストは、グローバー・アンド・ベーカー社のロックミシン第9号の宣伝用広告から。同社は米国フィラデルフィアを拠点にしていたミシン会社です。

ロング・スカートの女性が足踏式ミシンに座っています。足踏式メダルから動力伝達がどのように針へ届くのかわかりにくい構図です。

宣伝フレーズには、シンプル、丈夫、軽快、高速、簡単操作となっています。フレーズ自体がなんと軽快な…。

ジェームス・モリソン社のミシン女性

ジェームス・モリソン社のミシン女性

ジェームス・モリソン社のミシン女性

このイラストはジェームス・モリソン社(James Morrison and Company)の広告から。広告名は「特許ミシン・ファン」。

ロング・スカートを履いた女性が足踏式ミシンを使っている場面です。少し違うのは彼女の正面に団扇が設置されている点です。

この団扇は足踏ペダルから動力を採ってきて風を送ってくれます。ミシン針を冷ますのでしょうか、布を冷ますのでしょうか、はたまたミシンに夢中の彼女を冷ますのでしょうか…。

レミントン社のミシン女性

レミントン社のミシン女性

レミントン社のミシン女性

このイラストはレミントン社ロックミシンの広告から。

ロング・スカートを履いて足踏式ミシンを使っている状況は他社と同じ。この女性を見るたびに目つきと白眼が怖いと感じます。

細いテープを縫っていますから、ボタンホールを作っているかと思います。

フレーズは、完璧な縫製、軽快な動き、丈夫なボディなど、キーワードの羅列があたかも文章化のように展開しています。

ホイーラー・アンド・ウィルソン社のミシン女性

このイラストはホイーラー・アンド・ウィルソン社のパンフレットから。

まず、ロックミシンの広告から2種類のミシン女性を紹介します。

ホイーラー・アンド・ウィルソン社のミシン女性

ホイーラー・アンド・ウィルソン社のミシン女性

ホイーラー・アンド・ウィルソン社のミシン女性

ホイーラー・アンド・ウィルソン社のミシン女性

1枚目のイラストはメダルが邪魔で足踏ペダルが見えません。

2枚目は確認できます。

左手はミシンのクランク部分を持っていませんから、おそらく両方のイラストとも足踏式ミシンでしょう。

いずれもミシン針が手前にきている仕様で、このミシンはテープを縫うボタンホール作成用かと思いますが、どうでしょう…。

かなり飽きてきました。ロングスカートやワンピースのロングドレスを着て足踏式ミシンを使う女性。そこで、ホイーラー・アンド・ウィルソン社から新鮮なイラストをご紹介。

ホイーラー・アンド・ウィルソン社のミシン女性

ロング・スカートを履いて足踏式ミシンに座っている姿は、今まで紹介したイラストと同じです。

このイラストが新しい点は、このミシンで作ったらしいスカートを試着している場面。一人の女性が試着して別の一人の女性が着装を補助しています。ミシンに座る女性は自分の作品を喜んで見つめているようです。

工場にいるミシンと女性

これまで見てきたイラスト類は家屋・家庭内のミシンと女性の組み合わせでした。

20世紀前半になると、アパレル工場内のミシンと女性も描かれるようになります。

アイディール・ステッチャー社のミシン女性

次のイラストはアイディール・ステッチャー社の段ボール底縫ミシンです。

女性が足踏ペダルを踏んで操作しています。

アイディール・ステッチャー社の段ボール底縫ミシンと女性

アイディール・ステッチャー社の段ボール底縫ミシンと女性

同社の公式サイトはこちら

ジェームス・モリソン社のミシン女性

次に1934年に印刷されたワイヤー縫ミシン。

これはジェームス・モリソン社の広告です。

ジェームス・モリソン社のミシン女性

このミシンは、なんと糸で縫うのではなく糸より太いワイヤーで縫えるミシンです。

一体どんなものを縫っていくのでしょうか。

  • 印刷機やブックバインダー用…容量はいろいろ。2枚シートから1/4インチまで。 2枚シートから0.5インチまで。 2枚シートから7/8インチまで。 これらのモデルは、2枚のシートから、記載されている能力まで、あらゆるスタイルの作業を処理します。厚さ4分の1インチから1.5インチまでの作業を行う頑丈なミシンです。
  • 紙箱メーカー用…コーナー滞在用のスタイルと他のいろんな組み合わせボックスがあります。重いファイバーボックス用や、出荷用コンテナを縫うための特許取得済みオープンヘッドデバイス用があります。

コンテナというと鉄製に思えますが、貿易港にあるようなコンテナではなさそうです。

メロー社のミシン女性

次いで、メロー社のパンフレットから。

1926年に印刷されたものです。

メロー社のミシン女性

メロー社のミシン女性

上の写真は、オペレーターにとって便利な場所にあるテーブルに接続された縁縢フォルダーを写したものです。

画像が小さいので単なる布押えのように見えます。縫製工程の終りの方で紹介されています。

ユニオン・スペシャル社のミシン女性

最後にユニオン・スペシャル社のミシンと女性を紹介します。

ユニオン・スペシャル社のミシン女性

ユニオン・スペシャル社のミシン女性

1点目は同社製クラス「15400」ミシンを使っている女性。この機種はオーバーロックミシンです。

2点目はユニオン・スペシャル社製ミシンを使う「インターナショナル・シュー社」の様子。同社はミズーリ州セントルイスのグラスゴー・アベニューで操業していました。

ユニオン・スペシャル社のミシン女性

ユニオン・スペシャル社のミシン女性

家屋でのミシン女性は爪先まで隠すイラストばかりでした。縫製工の女性たちはスカートから足首を出しています。とても対照的な姿です。

この写真は裏地部門と試着部門の一部で写されたものです。

一番手前の女子は片足で運転しています。その隣の女性は両足で運転しています。この違いを説明した次の学生アンケートをぜひお読みください。

まとめ

これまで、家屋内や家庭内でミシンを使う女性と、工場内でミシンを使う女性を見てきました。

家屋・家庭では女性がロング・スカートを穿いて足踏式ミシンを踏んでいるイラストがほとんどでした。これに対して工場内の女性は足首を出して自由にし、機能的な恰好をしています。

家屋・家庭のイラストは作業内容な簡素にみえます。これに対して工場の写真は作業内容が工程別に分けられているものが目立ちます。

私が想像するのは、前者のイラストは普通ミシン(本縫ミシン)を使う女性で、作業内容は広告や会社の種類に関係なく修理や直線縫が中心だったことです。

そして、後者の写真に映された作業内容は環縫や縢縫など複雑な縫製だったということです。

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