ミシンと衣服の経済史 第2章:ミシン多様化の意味

ミシンの歴史
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ミシン多様化の意味 : 第1部 第2章

この記事では『ミシンと衣服の経済史』に関するご質問のうち、第1部第2章「ミシン多様化の意味」についてお答えしています。

授業で質問して頂いた学生方々も含め、これまでご質問を寄せて頂いた方々に感謝いたします。

統一感を持たせるために文章の一部を変更し、簡潔な見出しをつけています。質問のはじめに♣、回答のはじめに♥をつけて区別します。

環縫ミシンに特化したミシン・メーカーについて

♣31頁2行目に、シンガー社環縫いミシンに特化した経営を行なっていたと記されています。

環縫いミシンはジーンズの裾あげやベルトを作る際に用いられるようですが、1880年代は何を作ることを目的として環縫いミシンが使われたのですか。

♥「環縫いミシンに特化した経営」はユニオン・スペシャル社の経営方針です。環縫ミシンは上体衣の袖や裾などの縁を縫います。今でもそうです。

シンガー社が動力を転換した時期

♣38頁5行目に、シンガー社が蒸気力と電動力のミシンに着手したと記されていますが、いつ頃、足踏式から蒸気力や電動力に移行したのですか。

♥51頁の図7に明示しています。

電動化の意義

♣52頁15行目に記されたように、電動式ミシンと足踏式ミシンは機能面で大差がないのに、シンガー社はなぜ、電動力に着手したのですか。

♥まず、高速化できる電動式を業者向け・工場向けに販売したかったのだと思います。

次いで、足踏式は脚の疲労という限界があったので、そこから脱出したかったのだと思います。

いずれにしても動力を変えることで新規需要を誘発したのではないかと考えています。

シンガー社281-21型はなぜ材料繊維をとかさなかったか?

♣56頁・58頁。なぜシンガー社281-21型では繊維を溶かさず毎分6,000回転が可能だったのですか。

♥281型は1953年に開発されました。

5,000回転以上になるとアパレル工場や裁縫屋は化学繊維を使ったと思います。ちなみにアメリカでは1937年頃に世界初の化学繊維ナイロンが開発されています。

シンガー社は米国企業なのにスコットランドで生産した理由は?

♣34頁12行目。シンガー社はアメリカの企業なのに、スコットランドでの生産を行った理由は何ですか。

♥57頁に記したように同社は販売面だけでなく製造面でも多国籍企業化していました。スコットランドは鉄が産出され、織物が豊富に存在し、造船業も盛んでした。

新旧イノベーションの関係は?

♣p29 新しいイノベーションと既存のイノベーションの競争関係は何ですか。

♥CDとDVD、DVDとBlueRay、デジタルカメラとスマホのデジタル化、等々を考えてみて下さい。

ミシン進化の2段階について

♣31頁に記された19世紀型と20世紀型のミシン進化の方向性の違いは何ですか。

♥51頁・52頁を読んで下さい。分かりにくい場合は「ミシンの進化 : 19世紀型と20世紀型」を読んで下さい。

シンガー社がユニオン・スペシャル社に勝った理由

♣どのようにしてシンガー社ユニオン・スペシャル社に勝ったのですか。

♥多品種の生産と広範囲にわたる宣伝で、世界的なシェア比率を上げたことにあります。

勝負で考えるよりも、ユニオン・スペシャル社はマニアックなミシン、シンガー社はオーソドックスなミシンで売り込んでいたので棲み分けができていたとも見れます。

ホイーラー・アンド・ウィルソン社がシンガー社に遅れた理由

ホイーラー・アンド・ウィルソン社はなぜ電動式ミシンの開発でシンガー社に遅れをとったのですか。

♥W&W社が電気力を低評価したからだと思います。20世紀転換期に電気力とガソリン力が人類にどう作用するかは未知でした。「19世紀型進化 1 : 動力の転換」を読んでみて下さい。

ユニオン・スペシャル社の現状について

ユニオン・スペシャル社の現状はどうなっていますか。

♥本当に尋ねているのですか? 知りたいならとりあえずインターネットで検索しましょう。それでも分からなければ、具体的に質問を立てましょう。

シンガー社製品の多様化の秘密

シンガー社製品の多様化の秘密は何ですか。

♥53頁注6に記した「赤の女王化説」をみて下さい。米国ミシン会社の全てが抜けられない競争関係に入ってしまったのが原因です。

また、その関係から抜け出るためにシンガー社は他者との区別化を行ない、小刻みな販売戦略も大規模販売に負けずと導入しました。

たとえば、それまでアパレル業者やアパレル工場へ販売していた性能のミシンを主婦層へ販売し、新型は業界へ売るとか、動力の異なるミシンを地域別に輸出するとかです。

19世紀のミシンと20世紀のミシンの最も大きな違い

♣19世紀のミシンと20世紀のミシンの最も大きな違いとはどこですか。

♥51頁・52頁を読んで下さい。分かりにくければ「ミシンの進化 : 19世紀型と20世紀型」を読んで下さい。

20世紀のミシンはミシンに別の機械や装置を付けることで新製品として商品化されていきました。もちろん、19世紀のミシンを踏襲して部分的に性能を高めるという商品化も進めています。

手縫い水準に到達したミシン

♣電動式ミシンの機能性や多能性が手縫いと並んだ理由は付帯装置による縫製外作業の発達によるものですか。

♥それもあります。他にミシン針が水平にも動けるようになった面もあります。ただ、ミシンが多機能になったのは電動式ミシンよりも足踏式ミシンが開発されたことに多くの恩恵を受けています。

効率の良いミシン

♣第1章に掲載されているミシン類のなかで最も効率が良いとされたのはどれですか。

♥効率の基準によります。

ミシンの高速化と化学繊維の開発

♣化学繊維の開発が進むにつれミシン速度が上昇しいったのは摩擦で燃えなくなったということですか。

♥そういうことです、燃えにくくなります。ミシン運針速度は20世紀転換期頃に一旦停滞しています。

♣縫糸が高熱の針に溶けるという技術的問題について。ミシンを高速化しすぎた故に針が高熱になったという意味ですか?

♥そうです、針が高熱になり、縫糸は溶けたり燃えたりすることがありました。昔はミシン本体もミシン針もほぼ全て鉄です。

シンガー社にとっての普通ミシン

シンガー社が大量製造かつ大量販売した機種は少数の種類に限定にされていたと書かれていますが、そうなると「普通ミシン」のシンガー社という名前の普通ミシンとはどういったもののことをいうのですか。

♥シンガー社の主力商品は「少数の種類に限定にされ」た「普通ミシン」だったということです。他方で同社は製品構成のロング・テール部分に多数の「特殊ミシン」も含めています。

イノベーションのジレンマの事例

♣ミシンの能力向上の結果、糸が針の温度に耐えられないという例以外のイノベーションのジレンマの例は他にないですか?

♥インターネットでゴロゴロと事例はあります。とりあえず一気に書けるのは次のようなジレンマ群です。

  1. 自動車のタイヤとエンジン
  2. 独ソ戦での戦車開発(タイガーからマウスへの移行、独軍マウスとソ連軍T34とのベルリン戦闘)
  3. Battle of Britain(英独戦)での戦闘機開発(英軍スピット・ファイアと独軍メッサー・シュミットとの戦闘)
  4. 同戦争で高速戦闘機メッサーシュミットが爆撃機ハインケルを擁護できなかった理由

電動式ミシン部門を分離するメリットは?

♣38頁に電動式ミシン部門を分離させると競争が有利になると記されていますが、なぜ有利になるのですか。

♥子会社化にしたのだと思います。当時は電動式は主流になっていないので切り離しやすくしておく企業が多かったと思います。

ミシンの自動給油の意味

♣45頁に自動給油という表記がありますが、ミシンは燃料を燃やして動かすものになったのですか?

♥動力への自動給油ではありません。ミシンは小部分に分かれた鉄の機構ですから、摩擦を減らすために随所に給油しました。自転車の油と同じことです。

ミシンの動力転換と布送りの関係

♣手廻式ミシンでは片手で布送りをし、足踏式ミシンが開発され両手送りか可能になりました。電動式ミシンでは再び片手で布送りするようになったのですか。

♥電動式ミシンは足踏式ミシンと同じで両手で布送りをします。押入れなどを探してみてください。

20世紀初頭に日本のミシン・メーカーは?

♣シンガー社かミシン市場を寡占していたとき日本のミシン会社は台頭していなかったのですか。

♥ミシン修理業を始めていました。しかし「工業所有権に関するパリ条約」の規制下で特許障壁にぶつかっていて、1930年頃まで新型ミシンの製造販売はできませんでした。

具体的には環縫ミシンに関するシンガー社の2つの特許が1929年と1932年に切れるまで、環縫ミシンの製造販売は不可で、本縫だと性能で米国製やドイツ製に勝てず、といったところです。

この点については本を出した後の新しい課題として論文「ミシン国産化の遅延要因」を書きました。論文の要約をまとめているのでこちらもお読みください。

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