工業用ミシンの裁縫用語

ミシンで服づくり
この記事は約14分で読めます。
この記事では、1972年のJIS(日本工業規格)から、工業用ミシンの裁縫用語について、縫方式、用途、ベッド形状(縫床形状)の3点から説明しています。
家庭用ミシンの裁縫用語はこちらにまとめています。家庭用と工業用では同じ言葉とを使う場合と、使わない場合に分かれます。
この点を意識して、この記事ではいったん工業用ミシンの裁縫用語としてJISが規定したものを網羅します。家庭用ミシンの裁縫用語にも規定されている用語については、それを明記しています。
ミシンや縫製の多様な点からみると、JIS規格はやや無謀な規定をしているようにも思えます。
しかし、20世紀のアパレル業界やミシン業界は自作自演的で、あまり説明的ではなかった点を考えると、規格化の意志を高く評価したいところです。

出典 松下良一編『'74縫製機器総合カタログ』松下工業、1974年

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工業用ミシンの分類項目と分類基準

JISは工業用ミシンを3段階に分けています。

3段階とは大分類・中分類・小分類で、それぞれの基準は次のとおりです。

  1. 大分類…工業用ミシンの縫方式
  2. 中分類…工業用ミシンの用途
  3. 小分類…工業用ミシンのベッド(縫床)の形状

大分類から順にミシンの区別と説明を紹介します。

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大分類…工業用ミシンの縫方式

大分類は工業用ミシンの縫方式によって区分しています。

縫方式は、おおむね糸の絡まり方とお考えください。

  1. 本縫(ほんぬい)…下糸を収めたボビンの周囲を上糸が回り、上糸と下糸の絡み合いを構成する縫方式(縫い方式)です。工業用ミシンの基本的な縫製の一つ。家庭用ミシンでもよく使われる用語です。表示記号「L」。
    本縫ミシン(錠縫ミシン)を含む記事
    本縫ミシンを含む記事を集めています。本縫式ミシン、錠縫ミシン・錠縫式ミシンとも。いま家庭用ミシンや職業用ミシンの大部分はほとんどこの形です。上糸と下糸の2本糸を使います。下糸はボビンが操作し、上糸と下糸の縫い合わせは布のなかで行なわれます。
  2. 単環縫(たんかんぬい)…縫製される物の一面だけから糸を供給し、連鎖上の絡み合いを構成する縫い方式です。表示記号「C」。
    環縫ミシン・鎖縫ミシンを含む記事リスト
    環縫ミシン・鎖縫ミシンを含む記事リスト。環縫式ミシン・鎖縫式ミシンとも。糸の数によって「1本糸環縫」(単環縫)は上糸だけ鎖縫いし「2本糸環縫」(二重環縫)は上糸と下糸で鎖縫いをします。メリヤス製品や「傘」などを縫うのに適しています。
  3. 二重環縫(にじゅうかんぬい)…ルーパーで操作される下糸によって、上糸との絡み合いを構成する縫方式。工業用ミシンの基本的な縫製の一つ。ロックミシンという言葉で家庭用ミシンでもよく使われる用語です。表示記号「D」。
  4. 偏平縫(へんぺいぬい)…上糸を3本以上使い、そのうち1本以上を他の2本以上の糸間の渡り縫いに使います。そして下糸は各2本以上の上糸と絡み合いを構成する縫方式。表示記号「F」。
  5. 縁縢縫(ふちかがりぬい)…上下・左右に移動するルーパーの作用によって、縫製されるものの端面部を上糸と上下面でそれぞれ絡み合いを構成する縫い方式。家庭用ミシンでもよく使われる用語です。表示記号「E」。
    縁縢縫ミシン

    縁縢縫ミシン(ふちかがりぬいみしん)を含む記事を集めています。

  6. 複合縫(ふくごうぬい)…異なるの縫目形式の2つ以上組み合わせた縫方式。表示記号「M」。
  7. 特殊縫い(とくしゅぬい)…糸を使う二方式で、これまで説明した縫い方式に属さないもの。表示記号「S」。
  8. 溶着(ようちゃく)…縫製されるものをローラ形電極で送りながら溶着する縫方式。表示記号「W」。

関連 環縫ミシン/二重環縫ミシン/オーバーロックミシン

ルーパー(ルーパ)とは縫製に必要な下糸環を作る部品です。上糸環に作用して縫いを構成させたり、糸をもたずに上糸環だけに作用して縫いを構成させたりします。

中分類…工業用ミシンの用途

中分類は工業用ミシンの用途によって区分しています。

ただし、縫目の模様も考慮されています。

直線縫(ちょくせんぬい)

縫われる物を機械的に連続して一定方向に直進させて、直線状に縫う縫い方。

返し縫も直線縫に含みます。家庭用ミシンでもよく使われる用語です。表示記号「S」。

複列縫(ふくれつぬい)

直線が二つ以上並列している縫い方。

わざわざ複列という難しい言葉を使うかはともかく、家庭用ミシンでもよく使われる用語です。表示記号「T」。

千鳥縫(ちどりぬい)

機械的に連続して千鳥形に縫う縫い方です。

ジグザグ縫いとも。家庭用ミシンでもよく使われる用語です。表示記号「Z」。

刺繍縫(ししゅうぬい)

手動または機械的に、自由に任意の模様を描く縫い方。表示記号「E」。

ボタン付け(ぼたんつけ)

ボタンやスナップなどを、被服その他の被縫製物を縫いつける作業で使う縫い方です。

ボタンやスナップなどを適正な位置に置いて、縫い付ける作業を機械的に一周期の間に行ない、かつ、一周期ごとに自動的に停止する縫い方。表示記号「B」。

ボタン穴(ぼたんあな)

ボタン穴(ボタンホール)の穴開けとその周縁の縫製を同時に行なう縫い方。

糸でかがる(縢る)作業を機械的に連続して一周期の間に行ない、かつ、一周期ごとに自動的に停止する縫い方です。表示記号「H」。

閂止(かんぬきどめ)

被服など縫われる物の各部の止め縫いや、それら被縫製物の付属品あるいは小物などを止め付ける作業。

機械的に一周期の間に行ない、かつ、一周期ごとに自動的に停止する縫い方です。表示記号「K」。

飾縫(かざりぬい)

装飾を目的にした縫い構成を作る縫い方。

スカラップ縫いやシジジ縫いなどがあります。

これらは装飾を主目的にしますが、2本針の飾縫のように、従目的の飾縫ミシンも含めます。飾り縫いとも。表示記号「D」。

掬縫(すくいぬい)

縫目を表にあらわさずに、布の厚みの間をすくうようにして縫います。

洋服の袖口、裾の折返し、ズボンの裾、洋服用折襟の心刺し(八刺し)、各種の普通マツリ、コート類のヘリ取り(奥マツリ)などに使います。

掬い縫いとも。表示記号「M」。

掬縫には「抄縫」を漢字にあてることもあります。別名もあって「めくら縫」「伏縫」(ふせぬい)とも。英語で「invisible stitch」。

掬縫専用のミシンがあり、ふつう抄縫ミシンといいます。

ヘリ縫(へりぬい)

被縫製物の端面部を、解れ(ほつれ)防止や装飾の意味を加味して行なう縫い方。

縁縫い。表示記号「F」。

安全縫(あんぜんぬい)

縁縫に隣接して、合わせ縫いを同時に独立して作る縫い方。

縫製強化を目的にします。表示記号「A」。

八方縫(はっぽうぬい)

針棒の円の中心たる八方送り機構によって、被植製物を自由な方向に縫い分ける縫い方。

八方送り機構とは、どの方向にも直進できる送り機構がアーム内部に組み込まれているものをいいます。表示記号「J」。

袋口縫(ふくろくちぬい)

袋の口を縫い合わせる縫い方。

縫い終りの方向から縫い初めの方向に向かって、器具を使わずに簡単に解く(ほどく)ことができるものをいいます。表示記号「P」。

小分類…工業用ミシンのベッド(縫床)の形状

小分類は工業用ミシンのベッド(縫床)の形状によって区分しています。

  1. 短平形(たんひらがた)…ベッド面が長方形の平面になっていて、テーブル面とほぼ同一平面上にあり、ベッドの長手方向の寸法が420mm未満のものです。表示記号「1」。
  2. 長平形(ながひらがた)…ベッド面が長方形の平面になっていて、テーブル面とほぼ同一平面上にあり、ベッドの長手方向の寸法が420mm以上のものです。表示記号「2」。
  3. 筒形(つつがた)…アームとほぼ平行に突出した腕状(筒状)のベッドのことです。腕形ベッドとも。ふつう、このベッドの方向に対して、送りが直角または平行に作動し、袖口などの縫い合わせに使います。また、別側の送り機構と自動停止装置をもつミシンは閂止ボタン付けなどに使います。表示記号「3」。 事例
    シンガー 10-1:皮革厚物縫ミシン
    これは、シンガー社の背嚢・鞄(バッグ)など3/4”までの厚物用。筒形ベッド23"の長さ、縫床(ベッド)14"、上送り。速力は2000。
  4. 箱形(はこがた)…ミシンの内部機構を全覆し(すべて覆い)、ベッドの外見が箱形になったもの。テーブル面から独立してテーブル上面に定置され、作業が行なわれる形状のミシンです。表示記号「4」。
  5. 柱形(はしらがた)…直立突起したベッド面をもつミシン。バッグなどの縁、靴下・手袋などの指先の緑縫作業に適しています。トックリ形やポスト形とも。表示記号「5」。事例
    デュルコップ 535:1本針ポスト型本縫ミシン
    デュルコップ社の1本針ポスト型本縫ミシン。靴の上部革の縁縫用。車輪送り、ローラー押え。インチあたり縫目数は9/64"。速力は3000です。縫目の長さを調節するレバー装置とウォームギアの部分図のイラストあり。
  6. 送り出し腕形(おくりだしうでがた)…アームにほぼ直角に横に突出した腕状のベッドをもつミシン。ふつう、送りがその腕に平行に作動し、袖やパンツなどを自動的に筒形に縫い合わせながら、送り送りだす作業をします。表示記号「6」。

以上の小分類に属さないもの、異形ベッド、ベッドのないものは表示記号9を用います。

工業用ミシンの表示方法

ミシンの表示方法は、大分類、中分類、小分類の順序に各分類の表示記号を組み合わせます。

ただし、中分類以下の分類が複合されたミシンは、原則として、主たる分類によって表示するものとします。

主従なくいずれも表示する必要がある場合は、その分類において主たる表示のあとにカッコを付けて、その複合されたものの分類を表示します。

表示の例は次のとおりです。

大分類・中分類・小分類/表示記号
  • 本縫・直線縫・短平型/LS1
  • 二重環縫・ヘリ縫・箱形/DF4
  • 複合縫い(縁カガリ縫、二重環縫)・安全縫・箱形/M(ED)A4

など。

工業用ミシンの縫目・縫目形式

工業用ミシンの縫目は次の点で区分されます。

  • 縫方式(これまでの紹介では大分類)
  • 使用針数
  • 使用糸数

縫方式

L(本縫)

C(単環縫)

D(二重環縫)

F(偏平縫)

E(縁縢縫)

S(特殊縫)

使用針数

2(2本針)

3(3本針)

4(4本針)

使用糸数

1(1本糸)

2(2本糸)

3(3本糸)

4(4本糸)

5(5本糸)

6(6本糸)

9(9本糸)

以上の区分をふまえて、上で紹介した縫方式の縫目を紹介します。

工業用ミシンの縫目・縫目形式

工業用ミシンの縫目・縫目形式

上図は順に次の縫目形式を表しています。

  1. 本縫1本針2本糸(L12)
  2. 本縫2本針3本糸(L23)
  3. 本縫3本針4本糸(L34)
  4. 本縫千鳥1本針2本糸(LZ12)
  5. 本縫複千鳥1本針2本糸(LZ12A)
  6. 本縫千鳥2本針3本糸(LZ23)
  7. 本縫スクイ1本針2本糸(LM12)

工業用ミシンの縫目・縫目形式

上図は順に次の縫目形式を表しています。

  1. 単環縫1本針1本糸(C11)
  2. 単環縫2本針2本糸(C22)
  3. 単環縫スクイ1本針1本糸(CM11)
  4. 二重環縫1本針2本糸(D12)
  5. 二重環縫2本針3本糸(D23)
  6. 二重環縫3本針4本糸(D34)
  7. 二重環縫千鳥1本針2本糸(DZ12)

工業用ミシンの縫目・縫目形式

上図は順に次の縫目形式を表しています。

  1. 二重環縫千鳥2本針3本糸(DZ23)
  2. 二重環縫下飾り2本針3本糸(D23A)
  3. 二重環縫下飾り3本針4本糸(D34A)
  4. 偏平縫両振り両面飾り2本針4本糸(F24)
  5. 偏平縫両振り両面飾り2本針5本糸(F25)
  6. 偏平縫片振り両面飾り3本針5本糸(F35)
  7. 偏平縫両振り両面飾り3本針6本糸(F36)

工業用ミシンの縫目・縫目形式

上図は順に次の縫目形式を表しています。

  1. 偏平縫4本針9本糸(F49)
  2. 縁カガリ縫1本針1本糸(E11)
  3. 縁カガリ縫1本針2本糸(E12)
  4. 縁カガリ縫スソ引キ1本針2本糸(E12A)
  5. 縁カガリ縫1本針3本糸(E13)
  6. 縁カガリ縫スソ引キ1本針3本糸(E13A)

工業用ミシンの縫目・縫目形式

上図は順に次の縫目形式を表しています。

  1. 縁カガリ縫二重環1本針3本糸(E13B)
  2. 縁カガリ縫2本針4本糸(E24)
  3. 特殊縫1本針1本糸(S11)

工業用ミシンの縫型・縫見本の略図・記号

ステッチ(縫型・縫目型)

次のイラストはユニオン・スペシャル社の提供しているステッチ(縫型)の略図・記号です。

ユニオン・スペシャル社の提供しているシーム(縫見本)の略図・記号。

  • タイプ101…単環縫
  • タイプ301…本縫
  • タイプ401…二重環縫
  • タイプ402…2本針二重環縫2本がけ
  • タイプ403…3本針二重環縫3本がけ
  • タイプ404…二重環縫千鳥縫(ジグザグ縫
  • タイプ405…2本針二重環縫千鳥縫(ジグザグ縫)
  • タイプ406…2本針二重環縫1本がけ
  • タイプ407…3本針二重環縫1本がけ
  • タイプ502…1本針2本糸オーバーロック
  • タイプ503…1本針2本糸オーバーロック
  • タイプ504…1本針3本糸オーバーロック
  • タイプ505…1本針3本糸オーバーロック
  • タイプ506…2本針4本糸オーバーロック
  • タイプ601…2本針3本糸偏平縫
  • タイプ602…2本針4本糸偏平縫
  • タイプ603…2本針5本糸偏平縫
  • タイプ604…3本針6本糸偏平縫
  • タイプ605…3本針5本糸偏平縫

シーム(縫見本・生地の合わせ方)

次のイラストはユニオン・スペシャル社の提供しているシーム(縫見本)の略図・記号です。

ユニオン・スペシャル社の提供しているシーム(縫見本)の略図・記号。

出典 松下良一編『'74縫製機器総合カタログ』松下工業、1974年

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